2014年9月6日土曜日

夜、
風呂に向かう途中に玄関を通ると、
並んだ履物の側に、コソコソ動くものがいた。
赤手蟹だ。

海が近く、裏手には小川が流れている。
人の出入りで玄関扉が開いた時に、
ひょっこり入ったのだろう。
風呂の帰りには、二匹になっていた。
夫婦か?
新月の大潮である。
海での産卵後、帰り道に迷ったか。

翌朝、七時前に目が覚めた。
雨が上がった直後のようで、
窓から見える海は灰色だが、
水平線上には青く山々が連なり、
吹流した様な雲が低く広がっていた。
はるか上の視覚の隅には、
幽かな青空の切れ端が見えていた。

さて、外の露天風呂に行こうと、タオル一本を首に掛けて部屋を出た。
玄関で雪駄を引っ掛け、昨日の蟹達を探した。
四方を探してようやく見つけたそれは、
脇の扉の下で一匹だけ、干からびていた。
誰かに踏まれたのか、ペチャンコだった。
ぼんやりと、もう一匹の行く末を想いながら、
少し熱めの湯に浸かったのだが、
上がる頃には、
蟹のことなどすっかり忘れてしまった。

頭上では、心地よさそうな風に乗り、
二羽の鳶が鳴きながら、
円を描いていた。

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